『潮騒の少年』を読んで。
一昔前に出版された同性愛小説を読んでみた
こちら、『フロント・ランナー』と同じで、読んでいた論文(Jeffrey Angles(2015) Multiple translation Communites in Contemporary Japan, Translating Queer in Japan: Affective Identification and Translation in the 'Gay Boom' of the 1990s.)で論じられていた作品です。
表紙が、なんとなく長野まゆみさんの絵に似ておる。
あらすじ
時代は1960年代のアメリカ。他の学生よりも少ししっかりとした16歳のビリー。彼は自分がホモセクシュアルだと自覚していた。そんな彼の前に、政治の世界へ入ろうとする魅力的な大学生、アルが現れる。一緒に選挙活動のボランティアをしているうちに、相手の性的指向に気づいた二人の関係は、急速に近づいていく…
最初読んだときは、なんとなく、君の名前で僕を呼んで、に似ている箇所があると思いました。エリオとオリバーの歳の差とか。主人公が早熟だとか。
全部読んでみると、『そんなことねえな!』ってなるんですが。(当たり前や)
感想
やはり、この時代のクイア小説は、なかなか重たいです。読んだ後にどっしりとした感覚が胃に残るというか何というか。個人的には、二人の関係は長くはないと思うんですよね。まして、あのフロント・ランナーよりも前の時代ですからゲイに対する風当たりは強いものでしたし。
- 作者: パトリシア・ネル・ウォーレン,北丸雄二
- 出版社/メーカー: 電子本ピコ第三書館販売
- 発売日: 1990/10/01
- メディア: 単行本
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ちなみに、最初のパートは割とヘテロの男の子が、カモフラージュの為に女の子と付き合ってみたりする感じで、安定した雰囲気ですが最後はなんとなく悲しいです。
日本語の訳のタイトルは、Anglesが上記の論文で述べているのですが、原題よりもpositiveな感じです。
でも、原題はThe Boys on the Rockで、ここでもふもふの解釈があっていればですが、
という意味があるので、分かりやすく直訳すると
破滅しかかっている少年たち、座礁している少年たち
ゲイとして生きていくのか、アルのように(多分)ヘテロとしてカモフラージュして生きていくのか、どちらにしてもこれから彼らには困難な人生が待っているんですよ、と読める気がします。
すごいネガティブ!
時代ものとして読んでも面白いです。ケネディ大統領の時代ですが、当時のアメリカの雰囲気が感じられますね。
でも、ビリー、アルフレッド、そして友人のケヴィンを願わないわけにはいかないくらい、もふもふは感情移入してしまったのでした。
同性愛が『○○』と書かれた時代
もふもふ的に一番興味を引いたのはある意味時代を感じさせる、本の後ろにある解説文でした。
同性愛は「至高の関係」であったらしい。
今はそんなこと書かないですよね。
当時、同性愛は異性愛ほど社会的な地位がなかったし、こうでも書かないと本が売れなくなってしまうのかもしくはそれほど同性愛にネガティブなイメージがあり、LGBTQがスティグマと認知されていた時代だったのですね。
異性愛体制がいかに社会的規範であったかを感じさせる文です。ある意味差別的表現...。
せっかくなので、原書を買ってみました。
残念ながらカバー無しじゃ読めない表紙になってます笑
Boys On the Rock P (Stonewall Inn Editions)
- 作者: John Fox
- 出版社/メーカー: SMP Paperback
- 発売日: 1994/02/01
- メディア: ペーパーバック
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だからカバーを自分で作った。
読んでみたところ、John Fox氏の英語はそんなに難しくないのですが、ヴァージニア・ウルフのように、あえて一文一文が長い時があります。意識の流れってやつですね。彼女ほどは長くないですが、少し読みづらいかなと思う箇所はいくつかあります。
でも、もふもふが読めたのだから、きっと大丈夫!
作者のJohn Fox氏はエイズでこの本の出版からほどなくして亡くなっております。
時代ですね…
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